野口幽香は、明治から昭和初期にかけて活躍した日本の保育者、社会事業家です。彼女は日本の保育事業と社会福祉の発展に多大な貢献をし、特に貧困家庭の子どもたちのための保育所設立に尽力しました。

生涯と教育背景

幼少期と教育

野口幽香は1868年（明治元年）、現在の静岡県に生まれました。幼い頃から教育に恵まれ、キリスト教の影響も受けて育ちました。

高等教育と保育への道

1890年、東京の桜井女学校（現在の青山学院女子短期大学）に入学し、キリスト教精神に基づく教育を受けました。卒業後、彼女は保育と社会福祉の分野に進むことを決意しました。

保育思想と実践

社会福祉としての保育

野口は、保育を単なる子どもの世話ではなく、社会福祉の重要な一環として捉えました。特に、貧困家庭の子どもたちに対する支援に力を入れました。

主な保育理念

1. 子どもの権利尊重: すべての子どもが適切な保育を受ける権利があるという考え
2. 家庭支援: 子どもだけでなく、家庭全体を支援することの重要性
3. 自立支援: 子どもたちが将来自立できるよう、基礎的な能力を育成する
4. 社会変革: 保育を通じて社会の不平等を是正する

二葉幼稚園の設立と運営

野口幽香の最も重要な功績の一つは、1900年に東京・四谷に二葉幼稚園（現在の社会福祉法人二葉保育園）を設立したことです。この偉業は、野口幽香が単独で成し遂げたものではなく、同志である森島峰との協力によって実現しました。

二葉幼稚園の共同創設

1. 野口幽香と森島峰: 二葉幼稚園は、野口幽香と森島峰の二人の女性によって共同で設立されました。
2. 協力関係: 二人は、キリスト教精神に基づく社会福祉の理念を共有し、貧困家庭の子どもたちを支援するという共通の目標を持っていました。
3. 役割分担: 野口が主に保育の実践と運営を担当し、森島は資金調達や対外的な活動を中心に担当したと言われています。

二葉幼稚園の特徴

1. 貧困家庭の子どもたちへの支援: 主に貧困家庭の子どもたちを対象とした、日本初の本格的な保育施設でした。
2. 無償保育: 経済的に困窮している家庭の子どもたちに無償で保育を提供しました。
3. 長時間保育: 働く母親のために、当時としては画期的な長時間保育を実施しました。
4. 給食の提供: 栄養面での支援として、給食を提供しました。

二葉幼稚園の影響

二葉幼稚園の設立と運営は、日本の保育史に大きな影響を与えました：

• 社会福祉としての保育の認識: 保育を社会福祉の一環として捉える考え方を広めました。
• 保育所の社会的役割の確立: 保育所が単なる子どもの預かり所ではなく、子どもの成長と家庭支援に重要な役割を果たすことを示しました。
• 公的保育制度への影響: 後の公的保育制度の確立に大きな影響を与えました。
• 女性の社会進出への貢献: 野口と森島の協力関係は、女性が社会事業を主導できることを示す先駆的な例となりました。

保育事業の拡大

野口は二葉幼稚園の成功を基に、保育事業を拡大していきました：

• 二葉保育園の設立: 1906年、より本格的な保育施設として二葉保育園を設立しました。
• 乳児部の開設: 1921年には乳児部を開設し、より幅広い年齢の子どもたちを支援しました。
• 農繁期託児所の設置: 農村部の子どもたちのために、農繁期託児所を設置しました。

社会への影響と遺産

著作と思想の普及

野口幽香は、自身の経験と思想を『幼き者を』などの著作にまとめ、保育の重要性と社会福祉の必要性を広く訴えました。

後世への影響

野口の保育思想と実践は、日本の保育と社会福祉の発展に大きな影響を与えました：

1. 保育所の社会的認知: 保育所の必要性と社会的価値の認識を高めました。
2. 公的保育制度の基礎: 後の児童福祉法制定などの公的保育制度の基礎となりました。
3. 社会福祉としての保育: 保育を社会福祉の重要な一環として位置づける考え方が定着しました。
4. 家庭支援の重要性: 子どもだけでなく、家庭全体を支援することの重要性が認識されるようになりました。

結論

野口幽香は、日本の保育事業と社会福祉の発展に多大な貢献をした先駆者です。彼女の二葉幼稚園の設立と運営、そして貧困家庭の子どもたちへの支援は、当時の社会に大きな影響を与えました。

野口の思想と実践は、時代を超えて日本の保育と社会福祉に影響を与え続けており、現代の保育制度や児童福祉政策にも重要な示唆を与えています。彼女の遺産は、すべての子どもたちが適切な保育を受ける権利があるという理念と、保育を通じた社会変革の可能性を私たちに示し続けているのです。特に、二葉幼稚園（現在の二葉保育園）は、彼女の理念を体現する施設として、今日も重要な役割を果たし続けています。